ロバスト連携プロジェクト

醸造用ブドウ苗木の促成育苗システム開発

醸造用ブドウ苗木の促成育苗システムの開発(2018年~)
研究代表者 実山 豊(農学研究院)

主にワイン醸造に用いられているヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)は本来温暖な地域で栽培されるが、昨今の温暖化傾向により道内でも栽培地が拡充されつつあります。しかし、その苗木の育成には長期間を要し、ワイナリーの増加も相まって現在苗木不足が深刻化しています。本研究は、育苗期間を短縮する栽培法の模索を目的として、水耕栽培系にて根域へのナノバブル施与と光波長変換フィルムによる光環境の改変を行い、これらの処理が苗木の生育に与える影響を調査しました。

材料および方法

 実験は、前述プロジェクトにおける温室施設(通称ロバスト温室)内の湛液型水耕装置で白ブドウ品種‘ ケルナー’の発根幼苗を2019年8月18日から11月18日まで育成して行いました。幼苗は、北大園芸圃に定植して3年目の母木からの剪定枝より発根させ作成しました。根域へのナノバブル処理はナノバブル発生装置で行い、対照区に熱帯魚用エアポンプで給気する区も設けました。光波長変換フィルム処理は、市販の光波長変換フィルムと、北海道大学工学院長谷川研究室で開発された希土類錯体を含む光波長変換フィルムの2種類を用い、対照区としてフィルム被覆を行わない処理区も設けました。ナノバブル施与とフィルム処理の組み合わせにより6処理区とし、各区6個体(反復)を供試しました。調査項目は、平均気温・水温の推移、1か月ごと(各月18日にサンプリング)の生重、葉面積(葉身長で代替)、根長としました。

結果および考察

 まず各処理の温度への影響をみたところ、光波長変換フィルムは小さかったのに対し、ナノバブル施与処理では大きく、処理によって水温が高く推移しました。生重、葉面積について各測定日ごとに2要因の分散分析を行ったところ、光波長変換フィルム処理の影響はどの時期においても検出しえなかったのに対し、ナノバブル処理の影響は生育初期において有意性が検出されました。次に、生重および葉面積の推移に対するナノバブル処理の影響をみたところ、どちらの形質もナノバブル非施与区で、比較的高く推移していました。しかし、生育後半の11月時点では、生重および葉面積における両処理区間の有意差はなくなり、ナノバブル施与区が追いついていました。さらに生育後半時点における根長を調べた結果、ナノバブル施与区では非施与区に比べて長かった。以上の結果から、ナノバブル施与区で生育後半の地上部バイオマスの漸減が現れなかったのは、施与区での根長の増加が影響していたと解釈した。本実験の生育前半においては、ナノバブル施与による生育促進効果はほぼ認められなかったが、気温が下降し始めた時期に生重や根長が増え始めました。このことから、ナノバブル施与の効果は試験を行った時期・温度環境などによって異なる可能性が考えられます。
本試験は、本来、秋剪定後のブドウ剪定枝を、冬季保温ハウス内で育成し、育苗システムとして稼働可能かを評価するものです。2019年早春に該当温室の保温機能が整ったことから、本試験が実質1度目の試験となります。しかし夏期に遂行した今回の実験環境は、過酷な高温また強光環境下で行われました。ナノバブルは一層の水温上昇を誘引し、更に光波長変換フィルム効果の強光による無効化の生じた可能性が十分考えられました。今後は本来の想定稼働時期である冬期にも同様の実験を行い、各処理の効果の検証を続けたい。

2020年度の研究目標

・低温期における醸造用ブドウの苗木促成栽培条件の模索を継続
・前年度までにポジティブな効果が薄かった光波長変換フィルム処理と根域ナノバブル施与の2手法について、暑熱害作用の無い状況下での促成効果を検証

特に、光波長変換フィルム処理、とりわけ工学部長谷川研究室より供試頂けたフィルムの処理区では、低温期に差し掛かる夏期試験の後半において13-15%の葉面積拡充傾向を示し(有意ではない)、根域ナノバブル施与によって生じる5-10℃の水耕溶液昇温効果も低温期にはポジティブな作用を示す可能性も考えられ、これらの現象が冬季にどのように変化するのかについて調査したい。

2020年度の研究概要

実験を試行している温室が、2年目の2020年の2月までに、低温期氷点下を回避すべくボイラー加温が可能となり、高温期の暑熱障害を回避すべく強制通風システムも稼働可能となりました。2020年3月から低温期試験、2020年5月あたりから2回目の高温期試験、そして2021年12月頃より2回目の低温期試験を経て、各処理のブドウバイオマス増大効果を検証した上で、ブドウ苗促成栽培系への人為処理としての光波長変換フィルム処理と根域ナノバブル施与の2手法の最適条件について提言したい。

温室プロジェクト
温室プロジェクトの
概要