ロバスト連携プロジェクト

発光フィルムを用いた農作物の成長育成

発光フィルムを用いた農作物の成長育成(2019年~)
研究代表者 長谷川 靖哉(工学研究院)

研究目的

光合成を行う植物は地表面に降り注ぐ太陽光を有効に利用しています。太陽光の中でも、赤色や青色ならびに緑色の可視光は光合成色素が光吸収できる波長であり、植物の成長および育成のための光科学技術研究は極めて重要です。しかし、北海道の大規模型農場でLEDなどの光源を新たに設置することは設備的かつ経費的に困難です。

我々は紫外光を高効率に可視光へ波長変換できる発光性希土類錯体の研究を行っています。この希土類錯体を含む発光フィルムは太陽光の紫外線を可視光へ効率よく変換でき(図1)、電力を消費しないことから大規模農場でも有効に使用することができます。本研究では、紫外光を効果的に可視光へ変換できる「波長変換フィルム」の開発を目的としています。

図1 発光フィルムによる紫外光の波長変換

研究1:新しい発光体開発に成功

太陽の紫外光や青色光を効率よく吸収して赤色発光に変換できる新しい希土類錯体の開発に成功しましたた。この希土類錯体は光を効率よく吸収する「ナノカーボン構造」を導入することにより初めて達成されました(図2)。本成果はNature出版のCommunication Chemistryに掲載され、国内外のWEB20件と新聞2社にその成果が掲載されました。  

図2 発光フィルムによる紫外光の波長変換
研究2:発光体のアモルファス化に成功

希土類錯体にメトキシホスフィンオキシドを加えることで、均一に赤色発光するアモルファス薄膜を形成させることに成功しました。この技術を用いることで、大面積の農業用フィルムに赤色発光体を均一に塗布できるようになりました。この技術の確立は極めて重要であり、特許に出願しました。

研究3:発光フィルムで農作物育成

作製した発光フィルムを用いて北大ビニルハウスにて植物育成試験(ブドウ、スイスチャード:図3)を行っています。さらに、現在ではアスパラガス育成や光合成活性研究(林業育成試験)も検討中。また、海藻育成に関しても最適な発光体を作製しています。

図3 発光フィルムによる食物育成
2020年度の研究概要

太陽光の紫外光成分を効率的に可視光(赤色や緑色)へ変換するため、波長変換フィルムの中に組み込む希土類錯体の発光量子効率(現在60%程度)をさらに高効率にする。
この高効率化により、太陽光照射下での耐光機能(光劣化しにくい性質)も向上する。
さらに、この物質をビニルハウスなどのフィルムに導入するためにアモルファス特性を示す希土類錯体の開発を行う。これらを軽量で安価かつ成形のしやすいポリエチレンやポリスチレンなどのポリマー材料でできたフィルムへの希土類錯体の導入を行う。
この検討により、波長変換フィルムの試作を企業と連携して行う。